AIだけの部署を作ってみた
——NECは17人、うちは1人から
2026年8月 株式会社ロジックワークス
NECが今年8月、部門長から社員まで全部AIという組織「コーポレートAI・Workforce部門」を作りました。AIエージェント17人。経営分析にかかる時間が約7分の1になったそうです。しかもNECは、この仕組み自体を外販する予定だと言っています。
このニュースを見て、思いました。
「これ、うちみたいな会社こそやるべきやつだ」
うちは大阪・交野市の小さな会社です。従業員は実質、代表の私ひとり。NECとは会社の規模が4桁くらい違います。でも、事務員が採用できない、SNSを更新する暇がない、営業まで手が回らない——そういう「人が足りない問題」の深刻さなら、中小零細のほうがNECの何倍も切実です。
だったら実験してみよう。大手の真似ではなく、1人会社の等身大で「AIだけの部署」を作ったらどうなるか。その記録を、このブログで失敗も込みで公開していくことにしました。
最初にやったこと:AIに私の事業計画を叩かせた
部署を作るにあたって、まず商品を決めました。建設業の中小向けに、SNS集客をAIが丸ごと代行するサービスです(うちは建設業向けのシステムを開発している会社で、あの業界の「手が回らなさ」をよく知っています)。
計画を立てたところで、普通なら人間の知り合いに意見を聞くところですが、せっかくなのでAIでやりました。財務・顧客・リスク・競合・運用の5つの役割を持たせたAIに、私の計画を同時に審査させたんです。いわばAIの役員会議です。
結果は、なかなか手厳しいものでした。
- 競合調査役のAIが、ほぼ同じサービスを半額で提供している実在の競合をWeb検索で見つけてきた(この時点で当初の価格戦略は白紙)
- 財務役のAIは「原価率数%と書いてあるが、人間のチェック時間を時給換算すると実際は月額の3割が原価。計算が甘い」
- 顧客役のAI(建設会社の社長になりきらせたもの)は「その操作、うちの世代には無理や。そこで解約する」
人間の専門家5人にこれを頼んだら、日程調整だけで2週間かかります。AIの役員会議は1時間で終わりました。私がやったのは、最後に「どの意見を採用するか」を決めることだけです。
AI社員第1号、入社
そうして生まれたサービスの担当として、うちの部署に最初のAI社員が入社しました。
続木たより(つづき・たより)。担当はAI集客係。
名前もAIたちの議論で決めました。実は最初の候補は別の名前だったのですが、商標調査役のAIが「その名前は商標の空きが厳しい」と指摘し、ネーミング担当のAIが「AIが『真似き』と名乗るのは自虐になる」と一刀両断。最終的に、社名の由来でもある「続く」を名字にしました。中小企業のSNSが失敗する理由は、品質ではなく「更新が止まること」だからです。
彼女はいまInstagram(@tayorisan_ai)で、建設会社向けの投稿を続けています。プロフィールには「わたしはAIです。人間のふりはしません」と書いてあります。
人間の仕事は5つだけ
「AIだけの部署」と言っても、人間がゼロではありません。私が唯一の人間として残っています。ただし、私の仕事は5つだけに絞りました。
- お金にかかわることの承認(価格・契約・請求)
- 写真が入った投稿の事前確認(施主さんの家が特定されるような事故は、AIまかせにしない)
- 納品物の検収
- 方針の決裁
- 責任を取ること
それ以外——文章を書く、画像を選ぶ、数字をまとめる、改善案を出す——は全部AIの仕事です。私は作業者から、承認者に転職した格好です。
この線引きは、思いつきではありません。うちが建設業向けシステムで2年かけて確立した「AIは提案まで、実行ボタンは人」という原則を、そのまま部署の設計に持ち込んだものです。
「AIだと手を抜かれてる気がする」問題
先日、友人にこの構想を話したら、こう言われました。「AIを全面に出すと、手を抜かれてると感じる人も一定数おるで」
その感覚は正しいと思います。そして、うちの答えはこうです。隠すのではなく、手間を見せる。
AIが作ったものが世に出るまでに、うちでは3つの関所を通ります。機械による決定的なチェック(固有名詞・写真の写り込み・禁止表現)、別のAIによる審査(作ったAIとは独立に、粗探しだけをさせる)、そして人間の確認。さらに、人間の監督が一定期間途絶えたら投稿自体が自動停止する仕組みも設計に入っています。監督のいない現場で作業をしない——建設業と同じです。
AIに任せる=楽をする、ではありませんでした。任せられる状態を作るために、これだけの仕組みを作り込む必要がある。それが、実際にやってみて分かったことです。
これからやること
この実験は始まったばかりです。フォロワー0人、問い合わせ0件からのスタート。ここから毎月、アクセス数も問い合わせ数も人間の作業時間も、実測の数字をそのまま公開していきます。うまくいけば実例になるし、こけたらこけたで、中小企業のAI導入の正直な症例報告になります。
そして最終的な野望は、NECと同じです。この「AI部署の仕組み」自体を、事務員が採用できない中小企業に届く形で商品にすること。うちの会社の理念は「AIを、従業員に」。その実験台に、まず自分の会社がなります。
付記:この記事の下書きも、うちのAI部署が書きました。事実確認と検収と公開ボタンは、人間(私)の仕事です。